一般社団法人 日本消化器内視鏡学会 Japan Gastroenterological Endoscopy Society

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胃がん検診を受けようと思っていますが、バリウムと胃カメラ、どちらの方がよいですか?

 胃がん検診については、以前はバリウム検査(胃透視検査)がまず行われ、異常があった場合に二次検査(精密検査)として胃カメラ(内視鏡検査)が行われていました。
 胃透視検査は、飲んだバリウムを胃の中に薄く広げて、胃の形や表面の凹凸をレントゲンで観察するものです(図1)。一方、内視鏡検査は先端についた小型カメラで胃の中を直接観察するものです。言い換えれば、胃透視は白黒の影絵を見ているにすぎず、凸凹のない平坦な病変や色の違いは認識できませんが、内視鏡は色の変化やわずかな粘膜の隆起や凹み、模様のちがいを認識できます(図2)。

図1. 胃透視検査

図1. 胃透視検査

図2.内視鏡検査

図2.内視鏡検査

 

 特に早期の胃がんにおいては、病変がわずかな隆起や凹み、周囲の粘膜との色のちがいとしてしか認識できないことが多いため、内視鏡の方がこうした病変の指摘には断然優れています。また、内視鏡では食道についても胃と同じ様に観察できますが、胃透視では食道はさっとバリウムが流れてしまうため、小さな病変や平坦な病変の指摘は困難です。さらに、内視鏡では“がん”が疑われたら、その病変の組織を一部採取(生検)して、病理診断(顕微鏡診断)によって“がん”かどうかの確定診断をつけることができます。

 こうした高い診断能にもかかわらず、これまで検診において胃透視検査が内視鏡検査よりも優先されてきた理由は、胃透視の方が手軽にできて(バスによる巡回検診も可能)、かかる費用が安く、検査時間が短く、検査を行う人手も多いため(胃透視は放射線技師が主に施行、内視鏡は医師のみ)、より多くの受診者を検査することができたからです。

 しかし、胃透視検査では少量ではあるものの放射線被ばくがあります。また、稀ですがバリウムの誤嚥による肺炎や、バリウムがなかなか排便されない場合に腸閉塞が起こることがあります。日本対がん協会が2010年に行った胃がん検診のデータによると、受診者243万1,647人のうち精密検査が必要と判定された方は20万7,877人(8.5%)で、このうち実際に精密検査(内視鏡)を受けた方は15万4,167人(77.4%)、“がん”が発見された方は2,683人(0.11%)という結果でした。これは見方を変えると15万人以上の方が2つの検査を受けるという二度手間をかけて、実際に“がん”が見つかったのは精密検査を受けた方の2%弱という極めて効率の悪い結果と受け取れます。こんなことであれば、はじめから内視鏡検査を受ければよいのではと多くの方が思われるのではないでしょうか?

 しかし、内視鏡検査にも欠点があります。多くの方が胃透視よりも内視鏡の方が苦しいと感じています。なかには、こんな辛い検査は二度と受けたくないとおっしゃられる方がいらっしゃるのも事実です。一方、全く平気という方もいらっしゃいますし、検査の際に鎮静剤(眠りぐすり)を注射することによって、眠っている間に(あるいはぼんやりした状態で)楽に検査を行っている施設もあります。さらに最近では、口から挿入する内視鏡よりも苦痛の少ない鼻から挿入する細い内視鏡(経鼻内視鏡)も多くの施設で行われていますので、特に喉の反射が強いなど、検査に不安を感じられる方は、検診を受けられる際に鎮静剤の使用や経鼻で内視鏡検査が受けられるかどうかを事前に確認されると良いです。また、その他に起こりうる合併症として、稀ですが喉の麻酔薬によるショックや生検(組織採取)による出血、内視鏡による粘膜の損傷や出血、穿孔があり、鼻からの内視鏡では鼻出血がみられることもあります。

 さて、最後に費用についてです。2016年2月に厚生労働省から示された「がん予防重点教育及び検診実施のための指針」において、以前から行われている胃透視検査に加えて内視鏡検査が胃がん検診に推奨されました。これを受けて胃透視だけでなく内視鏡も検診に取り入れている市町村や健診センター、病院、クリニックが急速に増えています。費用についてはバリウムより少し高額に設定されている場合が多いようですが、同額あるいは安価に設定されているところもありますので、内視鏡検査による胃がん検診を行っているかどうかも含めて、検査を受けられる市町村や施設に問い合わせをされると良いです。

胃透視検査と内視鏡検査の比較

項目

胃透視検査

比較 内視鏡検査
診断の正確さ 胃全体の変形をとらえやすい

凹凸のない平坦な病変も、色の変化で発見できるため早期のがんを診断できる

食道についても胃と同様に観察できる

負担

放射線被ばくあり

バリウムによる便秘の危険性がある

= <

 喉の痛みや違和感など検査に伴う苦痛が大きい

※経鼻内視鏡や鎮静の使用で軽減できる

費用   = < やや高価

以上のように、胃透視検査と内視鏡検査にはそれぞれ長所と短所がありますので、それらを踏まえてどちらを受けるか決めてください。


富山大学第三内科
安田 一朗
(2016年11月16日掲載、2022年2月7日更新)