十二指腸の腺腫/がんと言われました。内視鏡で切除できますか?
十二指腸のがんは比較的まれな疾患ですが、内視鏡検査の普及と技術の進歩により早期に発見される機会が増えてきました。がんの前段階ともいえる腺腫や粘膜内にとどまるがんに対しては、内視鏡治療が有効な選択肢となります。
十二指腸がんに対する標準的な外科的治療である膵頭十二指腸切除術(PD)は、膵臓や胆道系を含む広範な切除を必要とする大きな手術で、術後の回復にも時間を要します。一方、内視鏡治療は開腹せずに病変を切除できる低侵襲な治療法であり、体への負担を大きく軽減できる点が大きな利点です。


図1:十二指腸がんに対するESD
しかしながら、十二指腸は消化管の中でも特に治療が難しい部位です。腸壁が薄く、治療中の穿孔リスクが高いうえ、治療後に胆汁や膵液が接触することで遅発性の出血や穿孔が起きる可能性も高くなります。術前に行った生検が粘膜下層に強い線維化を引き起こし、切除を困難にすることもあります。特に広範囲の病変を剥離する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は、技術的難易度と偶発症のリスクが非常に高い手技です。
これらの課題を克服するため、近年ではさまざまな工夫が導入されています。比較的小さく悪性度の低い腺腫に対しては、電気を使わずに安全に切除できるコールド・ポリペクトミーや、局注を行わず水中で浮かせて切除するアンダーウォーターEMRといった技術が登場し、より安全・簡便な治療が可能になっています。また、ESDにおいても治療中・治療後の管理方法が改良され、成績は着実に向上しています。


図2:十二指腸腺腫に対するアンダーウォーターEMR
とはいえ、十二指腸の内視鏡治療には依然として非常に高度の専門性と慎重な判断が求められます。治療方法の選択にあたっては、内視鏡治療の経験が豊富な専門医に相談し、ご自身の病変の状態に最も適した治療方針を確認することが大切です。
慶應義塾大学医学部 内視鏡センター
加藤 元彦
(2025年9月9日掲載)