胃内視鏡検査で胃がんになりやすい人は分かりますか?
ピロリ菌と胃がん
ピロリ菌の感染が胃がん発症の原因であることが証明されています。日本ではピロリ菌感染者に対して除菌治療を保険診療で行うことが認められており、実際に除菌治療が普及することによって、その感染率は20-30%へと低下してきています。しかし、世界の中でも日本人の胃がんの発症率は高いことが知られており、自分自身の身を守るためにも個々で細心の注意を払うことが必要となります。胃がんの危険性を減らすためには、胃内視鏡検査などで検診を受ける時にピロリ菌に感染しているかどうかを正しく評価すること、定期的に内視鏡検査・検診を受けること、胃がんになりやすいかどうかを評価すること、ピロリ菌の感染者は確実に除菌治療を受けることが重要と考えられています。
胃がんの危険因子
一般的に胃がんを発症しやすい人は、ピロリ菌に感染している方、家族内に胃がんを患った方がいる方、1日の塩分摂取量が多い方、野菜や果実の摂取量が少ない方、喫煙する方、胃がんになりやすい遺伝的な素因を持っている方などがあげられています。日常生活に注意を払って生活習慣を改善することも重要ですが、ピロリ菌に感染している方は、除菌治療を受けてもらうことが必要です。除菌治療を受けると胃がんになる危険性が半分程度になることが知られています。ただし、除菌治療によって胃がんになる危険性が0になるわけではないため、定期的、かつ長期間にわたり検診を受診することが重要と考えられています。
内視鏡検査からみた胃がんの危険性
ピロリ菌に感染すると胃の中では様々な変化が現れます。そのため、胃内視鏡検査の担当医は胃の中の状態の特徴よりピロリ菌に感染したことがない状態であるのか(ピロリ菌未感染)、今ピロリ菌に感染している状態であるのか(現感染)、昔感染していた状態であるのか(既感染)を予測し、現時点でピロリ菌への感染が疑われる場合には感染の有無を調べるために検査を追加して判定を行います。
さらに、現在ではピロリ菌の現感染の方と既感染の方の中で、胃がんになりやすい方の内視鏡の特徴が明らかになりつつあります。特に、胃粘膜萎縮(図1A)、腸上皮化生(図1B)、鄒壁腫大(図1C)、鳥肌胃炎(図1D)、びまん性発赤(図1E)、黄色腫(図1F)といった所見を持った方は胃がんの発症の危険性が高いため注意が必要と考えられています。また、除菌治療をした方にみられる地図状発赤(図1G)という所見も胃がん発症と関連があることが報告されるようになってきました。胃内視鏡検査で胃がんになりやすい人を選定するために、これらの胃内視鏡検査での特徴を総合的に考えて危険性を点数化して評価する”胃炎の京都分類”も開発されています。胃内視鏡検査を受診した方の中で、自分自身の胃がんの危険性について興味がある方は、内視鏡検査や検診の担当医の先生に尋ねてみることをお勧めします。


図1A.胃粘膜萎縮: ピロリ菌が長期間にわたって胃に感染することによって胃粘膜(表面)の厚さ(組織)が減少して、薄く、弱くなった状態です。
B. 腸上皮化生: ピロリ菌の感染などが原因で荒れた胃粘膜(表面)を修復する際に胃ではなく腸の細胞に似た異常な変化をしてしまった際に観察されます。一般的には除菌治療をしても元に戻ることはありません。
C. 鄒壁腫大: 胃の中にある鄒壁(ひだ)が太まって観察される状態です。ピロリ菌に感染している時に観察され、炎症があることを示しています。
D. 鳥肌胃炎: 小児期やピロリ菌に感染している時に観察されます。非常に小さな隆起が胃の出口(前庭部)に多数出現し、いわゆる”鳥肌”のように観察されます。
E. びまん性発赤: ピロリ菌に感染している時に観察される胃の表面(粘膜)の赤みであり、炎症があることを示しています。
F. 黄色腫: 周囲とは境界明瞭に観察される類円形の黄色調の隆起した数ミリから1センチほどの病変です。
G. 地図状発赤: ピロリ菌の除菌治療をした数ヶ月後にみられる斑状の発赤した陥凹です。除菌治療をした人の25-30%の方でみられます。
大分大学 グローカル感染症研究センター
杉本 光繁
(2025年9月9日掲載)