内視鏡でなおせる喉(のど)のがんはどのようなものですか?
喉(のど)のがんについて
Q:喉(のど)のがんとはどのような病気ですか?
A: 喉(のど)のがんは、声を出す声帯や、空気や食べ物の通り道である喉頭・咽頭にできるがんです。初期には声のかすれや喉(のど)の違和感など軽い症状から始まることが多く、風邪と間違えて受診が遅れることもあります。
Q:どのような人がかかりやすいのでしょうか?
A: 最大の危険因子は喫煙と飲酒です。特に両方の習慣がある方はリスクが高くなります。お酒を飲むと顔が赤くなる体質の方(「フラッシャー」と呼ばれる方)は、アルコールによる発がんリスクが高いことが知られています。さらに、過去に食道がんを経験された方は注意が必要です。近年では、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が一部の喉(のど)のがんに関与していること明らかになっています。
Q:早期に発見することはできますか?
A: 近年の内視鏡技術の進歩により、小さながんでも発見できるようになってきました。たとえば、「胃がん検診」などで内視鏡を受けた際に、偶然、喉(のど)の早期がんが見つかることもあります。声のかすれや飲み込みにくさといった症状がなくても、定期的な内視鏡検査が早期発見のきっかけになることがあります。
Q:どのような治療がありますか?
A: がんの進行度や広がりに応じて治療法が選択されます。
• 早期のがん(リンパ節転移のないもの)
・内視鏡的咽喉頭手術(Endoscopic Laryngopharyngeal Surgery: ELPS)
・内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection: ESD)
図1:ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)
a. 通常(白色光)観察像です。病変は血管透見の途切れた発赤粘膜として認識されます(黒矢印)。
b. 特殊な染色液を用いた染色(ヨード染色)を行うと病変範囲はヨードで染まらない範囲(ヨード不染帯)として描出されます。
不染帯の外側に沿って切除範囲を設定しマーキングを行います。
c. 生理食塩水を用いてマーキングの外側近傍に局所注射を行い、内視鏡の先端から出した電気メスを用いて
全周性に粘膜切開を行います。
d. 経鼻内視鏡から挿入した細い鉗子を用いて病変を持ち上げ視認性を向上させながら切除を継続します。
e. 切除後の創傷面です。むくみはごく軽度で声帯が観察可能です。また出血もなくESDが終了しました。
f. 切除後の標本です。ヨード染色を行い病変範囲の確認を行います。
その後、病理組織学的検討を行い、詳細に病変の拡がりや深さなどを診断します。
どちらの治療も口から内視鏡を挿入して行う低侵襲手術です。体への負担が少なく、声や飲み込みなどの機能を温存できるのが特徴です。
また、同じ場所に放射線治療を何度も行うことは困難ですが、最初の治療が内視鏡による方法であれば、万一再発した場合でも放射線治療が選択肢になります。
• より深い病変に対して
がんはまず粘膜に発生し、徐々に深い層に広がります。ELPSやESDでは届かない深い層に及ぶ場合は、以下の手術が行われます。
・経口的ロボット支援手術(Tranoral Robotic Surgery: TORS)
・ビデオ喉頭鏡手術(Transoral Videolaryngoscopic Surgery: TOVS)
これらの手術は、発声や嚥下の機能をできるだけ守りつつ、万一再発した場合でも放射線治療が選択肢になります。
• 進行がんの場合
喉頭全摘などの大きな手術、または放射線治療や抗がん剤治療を組み合わせて治療を行います。さらに進行している場合には、薬物治療(抗がん剤や免疫療法)が選択されることもあります。
同じ部位に何度も放射線を行うことは難しいため、早期に低侵襲手術で治療できることは大きなメリットです。
Q:市民のみなさまへのメッセージ
A: 喉(のど)のがんは、早期に見つかれば体にやさしい内視鏡治療(低侵襲手術)で治すことができ、声や飲み込みの機能を保てる可能性が高まります。声のかすれや飲み込みにくさが続く場合は、「年のせい」「風邪のせい」と思わず、早めに専門医にご相談ください。また、定期的な内視鏡検査は早期発見につながります。正しい知識と早期受診が、健康と生活の質を守る第一歩です。
がん研有明病院 頭頸部がん低侵襲治療センター
石山 晃世志
(2025年11月28日掲載)