座長:岸野真衣子(東京女子医科大学 消化器内科・消化器病センター)
原田 直彦(国立病院機構九州医療センター光学診療部・臨床研究センター)
司会:平岡佐規子(岡山大学病院 消化器内科・炎症性腸疾患センター)
結城 美佳(出雲市立総合医療センター 内科・内視鏡センター)
下部消化管内視鏡検査における女性内視鏡医へのニーズ
石川県立中央病院 消化器内科
○川崎 梓、吉田 尚弘、土山 寿志
【背景・目的】下部消化管内視鏡検査はスクリーニングや疾患精査において有用な検査であり、年齢・性別を問わず広範囲の患者を対象に行われている。近年、大腸癌や炎症性腸疾患の罹患率は年々上昇傾向を示していることから下部消化管内視鏡検査の重要性は増しており、検査を希望する被験者は男女とも増加していくものと考えられる。女性だけが受ける乳癌や子宮癌検診では、女性医師による診療を望む傾向がすでに本邦でも多数報告されているが、下部消化管内視鏡検査に関しては、本邦における報告は一報のみでその対象も少なく、十分な解析は行われていない。今回我々は、下部消化管内視鏡検査における女性内視鏡医へのニーズを明らかにすることを目的として、下部消化管内視鏡検査を受ける男女を対象とした単施設の前向きアンケート調査を行った。【方法】2015年9月~2016年3月の期間に当院で下部消化管内視鏡検査を受ける予定の1164人(男性679人、女性485人)を対象に検査前アンケートを行った。主要評価項目は被検者の性別毎の下部内視鏡検査の担当医師として男性医師を希望する割合と女性医師を希望する割合についての比較検討であった。また年齢、検査既往、居住地、検査目的などの因子におけるサブグループ解析も行った。【結果】対象(男性被検者/女性被検者)の平均年齢は63.3歳/62.1歳、検査医として男性医師を希望する割合は32.3%/13.0%、女性医師を希望する割合は0.9%/25.6%であった(P<0.001)。女性被検者におけるサブグループ解析では、年齢別では40歳未満で20/33人(61%、P<0.001)、また大腸内視鏡検査未経験者の52/133人(39%、P<0.001)が女性医師を希望したが、居住地や検査目的では有意差を認めなかった。【考察】女性被験者は、男性被験者より女性内視鏡医を希望する割合が高く、若年または大腸内視鏡未経験ではより顕著であった。そのニーズに応える診療体制の構築や女性内視鏡医の確保、育成が望まれる。
キャリアサポートに関して女性内視鏡医へのアンケート調査結果報告
国立病院機構九州医療センター光学診療部・臨床研究センター
女性内視鏡医のキャリアサポートを目指した教育研修体制確立に関する研究会
○原田 直彦
2017年1月10日より、附置研究会「女性内視鏡医のキャリアサポートを目指した教育研修体制確立に関する研究会」より日本消化器内視鏡学会女性会員に対し「女性内視鏡医のキャリアサポートに関するアンケート調査」を初めたので集計途中データを抄録に示す。回答者の背景は、40歳台43%、30歳台34%、50歳台20%、20歳台3%であり、既婚69%、未婚21%であった。64%に子どもがいた。勤務施設は市中病院(常勤)が52%と最も多かった。消化器内視鏡専門医を81.3%が取得しており、卒後7-8年目での取得が最も多かった(34.3%)。1)キャリアサポート研修受講経験者は14.0%であり、全員が1ヶ月以上の研修期間であり100例以上の内視鏡検査を経験できていた。その研修を通じて消化器内視鏡専門医を7名が取得していた。2)解決すべき問題点として、「研修施設の増加」が最多であり、「研修施設の保育所・託児所の整備」、「各地方での研修施設整備」、「研修施設の情報提供が足りない」が続いた。3)出産・育休後の復職にあたり解決すべき問題点としては、「病児保育、院内保育の整備」が最多であり、「施設幹部・上司・同僚の理解」、「保育所・託児所の整備」、「勤務体制整備(非常勤勤務、フレックスタイム、ジョブシェアリング等)」、「夫の理解・支援」、が続いた。4)復職支援体制が十分であった場合に将来どのように働きたいと思うかでは市中病院(常勤)が57.3%と最多であった。
女性内視鏡医のキャリアサポート研修は未だ不十分であり受講者は少なかった。キャリアサポート研修を行うためには、各地方での研修施設、保育所・託児所の整備をすることで受講機会を増やす必要があることが伺えた。出産・育休後の復職には、周囲の理解、保育所・託児所の整備、勤務体制整備が必要と思われた。最終集計結果を附置研究会で発表する予定である。
あなたは、どんな働き方をしますか?~その後の当院の状況報告~
赤磐医師会病院 内科
○柚木 直子、澤原 大明、平井 通雄、川口 憲二、友田 純、佐藤 敦彦
一昨年、前々回の本研究会で、当院のような病院こそ女性内視鏡医のキャリアアップを支えるのに非常に適しており、当院にとってもメリットであるという提案をした。
今回はその後2年たっての当院の現状を報告する。現在当院の内科常勤医は7名(そのうち女性は私一人)内視鏡に携わる常勤医は私を含めて4人で平均年齢55歳と相変わらずの厳しい状況ではある。もともと週2回の大学病院からの内視鏡医の応援をうけていたが、それに加えて昨年から3人の女性内視鏡医が加わってくれている。3人とも子育てをしながら、まさにキャリアアップを目指している女性医師である。
内、2人は大学病院での研究と診療を継続しながら当院で内視鏡を施行、もう1人は岡山市内の病院で働きながら、当院で内視鏡を施行している。3人とも当院の託児所も適宜利用している。最初は、それぞれの事情に合わせて好きな形態で開始してもらった。お蔭で、当院の内視鏡件数は徐々に増加している。また、彼女たちも当院での仕事内容に非常に満足してくれて、色々と時間のやりくりをしながら、勤務の時間を増やしてくれた。気がつけば、日替わりでやってくるので、顔を合わせることもない彼女達なのに、ちゃんと曜日の組み合わせを考えて重なることのないように調整をしてくれていた。今や毎日、女性内視鏡医がいる環境である。女性内視鏡医による検査を希望する患者さんのニーズにも十分こたえることができている。
子育てをしながらの勤務であるので、急に来院できなくなるときもある。それは、私も経験上仕方がないことだと思っているが、他の男性常勤医も素直に受け入れてくれているのが有り難い。常勤医にとっては、朝、病院にきてみたら一人で午前中の検査をしなければいけなかったりすることもあるわけだが、それでも「この状況が毎日続いていた今までとは違う」と思うと頑張れるらしい。常勤医の心理変化もあったわけである。何よりも3人の女性医師が「ここで内視鏡ができるのが、うれしい。楽しい」と言ってくれているのが、最大の喜びであり、私の提案は間違っていなかったのではないかと、少しずつ実感している毎日である。
今後彼女達が、自分たちに続く人をどんどん当院に導いてくれることを期待している。
女性医師のための大腸内視鏡挿入法講習会
出雲市立総合医療センター 内科1)、内視鏡センター2)
○結城 美佳1)2)、駒澤 慶憲1)、石飛ひとみ1)、永岡 真1)、小林 祥也1)
高橋 芳子1)、雫稔 弘1)
本邦の大腸がん死亡の増加は特に女性で問題となっている。これは特に女性患者は羞恥心から大腸内視鏡検査(CS)を避ける例もあることも一因と考えられ、大腸内視鏡検査を専門とする女性医師の育成が望まれる。当院へCS目的で受診した患者に行った大腸内視鏡医性別希望のアンケートでは、同性医師を希望したものが男性患者・女性患者でそれぞれ12.7%・71.6%で圧倒的に女性患者での女性医師希望が多かった。一方当院のある山陰地方ではCSを担当できる女性医師は残念ながら少ないのが現状である。CSは右手の捻りによってトルクを先端に伝える挿入法が一般的におこなわれており、特に初心者女性医師がCS挿入法を学ぶ場合、男性に比べ握力、腕力が弱点で不利である。演者は握力・腕力による不利のない大腸内視鏡挿入法である「パワーレスCS」をおこなっているが、これは右手で内視鏡を捻って保持はせず、左手を起こす・倒すという動作で内視鏡全体を回転させることで、右手で捻るよりもはるかに小さな力で内視鏡が大きく回転することを利用した挿入法である。当院では若手女性医師へのパワーレスCS研修プログラムを作成し、これまで研修医を中心に指導を行ってきたが、今回当院勤務者以外に島根県の女性医師全体のCSスキルアップを目指し、病院勤務医だけでなく、産休・育休中の女性医師や、パートタイマー勤務の女性医師、常勤でも上部消化管内視鏡のみで復職している女性医師などを募り、コロンモデルを用いたハンズオンセミナーをおこなった。土曜午前に開催、島根大学地域支援学講座との連携により出張ベビーシッターによる無料託児つきで、2016年度合計8回開催した。今回は具体的な挿入法の紹介とともにその成果について報告する。
女性胆膵内視鏡医の育成に望まれる研修プログラム
山口労災病院消化器内科1)、山口大学大学院医学系研究科消化器内科学2)
○戒能 美雪1)、戒能 聖治2)
人口の急速な高齢化に伴い胆膵疾患は増加しており、症例によってはダイナミックな経過をとり緊急処置を要する場合もある。さらなる診療の充実が望まれる一方で、この領域を専門とする女性内視鏡医はまだ少ない。
膵・胆道領域において、内視鏡診療は必須かつ重要である。しかし、現状では胆膵内視鏡の研修プログラムは確立したものがない。ERCP関連手技の難易度は高く、習得すべき手技も多い一方で、急性膵炎等の偶発症が少なからず起こり得る。このため、その教育・修練は安全性を確保しつつ、可能な限り継続的に行われるべきである。が、女性医師では出産・育児等のライフイベントにより内視鏡研修を一時的に中断せざるを得ないケースがしばしばみられる。このため、研修プログラムにおいては中断・再開も念頭に置いた柔軟性を要する。研修は病態や手技に関する論理的理解、十分な読影、偶発症への対応、処置具の使用法の把握に始まり、介助、内視鏡挿入、乳頭正面視、カニュレーション、各種治療へと段階的に進んでいく。特に胆管への選択的挿管はERCPおよび関連治療における基本手技であり、大きな研修目標の一つとなるが、乳頭の形態によって難易度が異なり、症例を重ねる必要がある。到達段階については指導医が定期的に判断し個別に指導を行うことや、シミュレータやモデル機器での内視鏡操作の訓練も積極的に行うことが勧められる。また、研修中断後の再開に際しては、指導医と十分な面談を行い、当然ながら中断前の到達段階を確認すべきである。必要であればシミュレータ等での再トレーニングを行った上で、実臨床に戻ることが望ましい。
若手医師における女性の割合は増加しており、膵・胆道領域においても研修の充実をはかることで、専門医としての女性内視鏡医の活躍を期待したい。
大腸内視鏡の挿入容易化への取り組み
オリンパス株式会社 内視鏡開発2部
○倉 康人
女性内視鏡医の増加については、これまでにも本附置研究会「女性内視鏡医のキャリアサポートを目指した教育研修体制確立に関する研究会」のほか内視鏡関連学会、学会誌などでも数多く報告されており、機器開発においても留意すべき要件である。
従来から女性内視鏡医を中心に内視鏡の操作性向上に対するニーズは高く、我々内視鏡メーカーも機器の改善を行ってきており、一定の評価を頂いていると認識している。
近年、女性内視鏡医の増加に伴って、そのニーズはライフイベントに起因したものへと変化、増加する傾向にある。すなわち、ライフイベントを経験した女性内視鏡医および施設の指導医からは、内視鏡検査において診断スキルは低下しないが、挿入スキルの低下が顕著であり、そのことが内視鏡医としての復帰を困難なものとしている、という声を聴くことが多くなっている。内視鏡検査は、内視鏡の挿入が基本となった検査手段であり、特に大腸内視鏡においては、女性内視鏡医に限らず、挿入スキルの習得は重要なスキルとして認識されていることから、女性内視鏡医が内視鏡医として復職するためのキャリアサポートの観点で最重要の課題である。
また、女性内視鏡医の存在は、本邦における大腸内視鏡検査を拡大する条件のひとつであり、我々内視鏡メーカーも機器開発を行う上で、重要視して取り組んできた。
これまでの内視鏡や周辺機器の開発および改良、また習熟のためのトレーニングプログラムなどのサポート活動などの大腸内視鏡に関する取り組みを報告し、現状における問題点と今後の課題を明確にする。
今後も、被験者にとって、より良い内視鏡検査、治療を提供するため、先生方と協力して医療の発展(手技の容易化、機器開発)に継続して取り組んでゆく。
内視鏡術者の負担軽減に向けたスコープ開発の取り組み
富士フイルムメディカル株式会社 メディカルシステム開発センター
○福島 公威
富士フイルムは昨年秋、内視鏡システムの光源に波長の異なる2種類のレーザーを用いた内視鏡システム「LASEREO(レザリオ)」用スコープの新ラインアップとして、ユーザビリティの向上を追求したスコープ5機種を上市した。これら製品には術者の負担を軽減するための技術を多く搭載した。
捻り動作による疲労が問題となる右手の負荷低減に向けては、大腸鏡の挿入部に挿入部の硬さを手技中に変更できる「硬度調整機能」、深部の挿入性改善のための「カーブトラッキング」、挿入部全体の回転追従性を向上した「高追従挿入部」技術を導入した。挿入性の改善によりループ形成の頻度を抑制、開放時に必要となる捻り動作の回数自体を減らすと同時に、操作部を持つ左手や術者の体全体の動きを挿入部先端の回転力につなげ易くすることで捻りに必要な握力の軽減を目指した。
操作部は全面的に形状を見直した。開発にあたっては、世界各地の医師にご協力頂き、操作しながら感じたことを発話頂きその時の実際の手の動きと比較対照するという調査法を用いて、最適な形状を追求した。この調査で判明したのは、操作部の握り方は十人十色、多くの医師が自らの手の特性に合った独自の持ち方を編み出されていたことに加え、手技中もシーンに応じて微妙に持つ位置を変えているということだった。アングルつまみの回し方だけでも、手の大きさに応じて、親指だけ、親指-中指、親指-薬指、といったように術者に合った保持方法は異なっている。このような様々な持ち方や動きに対応できるようなデザインを目指した。また、操作部を持つ左腕の負担を減らすため、操作部とコネクタをつなぐ軟性部の動特性を見直し、操作部を動かした際の抵抗を軽減した。
今後もこのような細部にこだわる技術開発を通じて、内視鏡の使用性向上に取り組んでいきたい。
女性内視鏡医を支援する当社の取り組み
HOYA株式会社
○川島 香織
当社における取り組みは主に機器開発とキャリア支援の二点となる。機器開発については、女性医師が内視鏡を使用する際に重要な要素となりうる内視鏡操作部の設計が中心となる。日本の医師が欧米の医師に比べ、やや手が小さいという意見は多いが、女性については特にその傾向が強く、内視鏡操作部としては少しでも小型で軽量なものが望まれていると考えている。優れた耐久性や良好な操作性はもちろんのこと、ESDなどの長時間に及ぶ手技に対する疲労感の軽減や、内視鏡の操作のサポートをコンセプトに開発を検討している。キャリア支援の取り組みとして、アジアにおける女性内視鏡医のキャリアを支える活動WIGNAP(Women in GI Network in Asia Pacific)をサポートしている。WIGNAPはマレーシアのSubang JayaMedical CentreのDr.Sharmila Sachithanandanが会長を務め、アジアの内視鏡のスペシャリストである女性医師に参画を募り、キャリアサポートや教育と、その知識やスキルをアジアの国々に広めることを目的とした活動で、2014年からスタートし現在も継続している。トレーニングの内容は通常の内視鏡診断に限らず、大腸挿入あるいはEMR/ESD, EUS, ERCPなどの治療や、リーダーシップやメンタリングにまで広範におよび、参加者を内視鏡医に限らず看護師にまで拡大することを検討している。女性内視鏡医の育成が、女性の患者さんの受診を促進し、消化器疾患の早期発見につなげることを目指している。
〒700-8558 岡山市北区鹿田町2-5-1
岡山大学病院 消化器内科
平岡 佐規子
TEL:086-235-7219 FAX:086-225-5991
E-mail:sakikoh@cc.okayama-u.ac.jp
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