理事長 田中 信治
2022年5月13日〜15日に開催されました第103回日本消化器内視鏡学会総会(京都)において,日本消化器内視鏡学会第7代理事長に選任されましたので,就任のご挨拶を申し上げます。
日本消化器内視鏡学会は,数年間の準備期間を経て1959年(昭和34年)に日本胃カメラ学会として設立されたとお聞きしております。私が生まれたのが1958年(昭和33年)ですので万感の思いであります。本学会はすでに約35,000人(2022年5月現在)の会員数を有する巨大な学会です。これまで,田坂定孝,﨑田隆夫,丹羽寛文,上西紀夫,田尻久雄,井上晴洋(敬称略)の歴代の理事長の強力なリーダーシップのもと,輝かしい歴史が築かれ,世界に冠たる多くの業績を挙げてきました。
約2年前からのコロナ感染拡大のために,総会をはじめとするイベントの通常開催が困難となり,またWEBの充実と普及によって学会やセミナーのあり方に変革が生じております。幸いにも,井上晴洋理事長のリーダーシップのもと役員の皆さんの努力で,activityを落とすことなく学会運営が継続できております。まずはそれをしっかりと継続し,withコロナの今,そしてpostコロナの時代へ向かってさらに大きく発展させることが私の務めと考えております。
今後もこれまで同様に,会員の皆様の変わらぬ御支援・御協力を賜りまして,本学会と内視鏡医学のさらなる飛躍・発展を目指す所存でございます。
新専門医制度におきましては,これまで,田尻久雄前々理事長・井上晴洋前理事長,田中聖人理事,藤城光弘理事をはじめとする関係各位のご尽力により,本学会はすでにサブスペシャルティ領域として認定されています。現在も,詳細について専門医機構との話し合いが継続して行われております。本学会は,複数の学会にまたがる横断的学会であり,6つの基盤学会(日本内科学会,日本外科学会,日本救急医学会,日本小児科学会,日本医学放射線学会,日本臨床検査医学会)を有しております。新専門医制度においては,継続審議中の課題も多々ありますが,今後,さらに機構本部,関連学会との緊密な連携を図り,すべての基盤学会の会員の先生方にとって最良の結果となりますように理事会一丸となり,最大限の努力をして参ります。
また,加藤元嗣前理事,松田尚久委員長のご尽力によって,本学会独自のスクリーニング認定医制度を開始しました。専門医機構専門医の要件を満たさない先生も,この資格によって専門性を標榜することが出来ますし,研修システムも充実しておりますので,是非有効にご活用頂けますと幸いです。
内視鏡診断・治療の全症例登録を行おうという世界初の画期的なプロジェクトです。緒方晴彦理事,田中聖人理事のご努力でかなり浸透し普及して参りました。JEDは専門医制度とも密接にリンクしておりますし,日本の質の高い内視鏡診療が自動的に全国データとして登録され,多くの研究発表や全国の内視鏡診療状況の把握に大いなる貢献が可能です。なお,JEDはプロジェクト遂行のため,JED研究機構という独立した組織にデータ取集を委託し,すでに白書も掲載しており,今後,さらなる発展が期待されます。
新専門医制度の導入により,専門医取得・更新要件内容の比重が変わっていきます。その中で,学会セミナー,支部セミナー,重点卒後教育セミナー,本学会と共催のライブセミナーやハンズオンセミナーなどのさらなる充実を目指します。今後の大きな方針として,聴講主体のセミナーは基本的にWEB開催,総会や支部例会は基本的に対面開催という方針です。学会会場に参加して対面での質疑応答,他施設の先生と交流することは情報交換やモチベーションの維持・向上,若い先生の育成において不可欠と考えます。
女性医師が増加している中で,育児と診療・研究との両立に苦慮しておられる先生も増えております。日本社会全体の課題でもありますが,我々の学会においても極めて重要な問題です。女性内視鏡医のキャリアやキャリアアップのサポートに関して,塩谷昭子理事中心に,女性内視鏡医が活躍できる環境整備に力を入れて参ります。
海外の学会との交流としての欧州消化器内視鏡学会(ESGE)との合同シンポジウム,米国消化器内視鏡学会(ASGE)との合同シンポジウムは完全に定着してきました。山本博徳理事中心に,これまで以上に充実したプログラムになるように鋭意努力して参ります。アジアに目を向けますと、中国や韓国を中心としたアジア各国との合同シンポジウムに加え、若手医師を日本に招聘するJGES STARS Programもあります。コロナ禍のため現在中断しておりますが,徐々に再開したく思っております。日本がアジアのリーダーとして評価されるためにも,アジア各国の内視鏡医学をリードしていく可能性のある多くの若手留学生を継続して広く受け入れていきたいと思います。
現在,本学会独自の新たな国際イベント(JGES International)の構築を目指して検討委員会が立ち上がっていますが,評議員の先生方のご意見も仰ぎながらしっかり時間をかけて慎重に継続審議中です。
アジアにおいても,台湾(DEST),韓国(IDEN),香港(IDDF),シンガポールなどでは,英語を公用語とする国際学会を毎年定期的に開催しています。そして,アジアの他国の若い先生方も欧米の学会で積極的に発表や議論を行っています。世界的に国際化や交流が進みつつある昨今,日本消化器内視鏡学会総会も国際化への対応が必要です。英語セッションの設置やスライドの英語化は,学会総会に参加される海外の先生にとって極めて有用ですし,本邦の若い内視鏡医の英語の勉強の場にもなると思います。もちろん,学会総会は開業医の先生や国際活動をされない先生の勉強の場としても極めて重要ですから,日本語のセッションの継続・充実も絶対条件です。学会総会は,この二つの側面を両立することが必須であると考えています。
英文機関誌であるDigestive Endoscopy (DEN) は,松本主之理事を中心とする編集委員の先生方の並々ならぬご尽力により,2020年度にインパクトファクター(IF)が7.559(2020)まで上昇しました。なおいっそう発展させ,GIEやEndoscopyを追い越す国際的ジャーナルに育っていくことを期待しています。さらに,最近発刊されたDENの姉妹紙であるDEN Openは,松本主之理事,糸井隆夫委員長や編集委員のご努力で,すでに2022年3 月22 日にPMCに収載されPubMed にて検索できるようになりました。創刊時からの全ての論文が閲覧可能となり,直近に出版された論文については順次収載となります。
一方で,和文誌も,藤田直孝前理事,乾 和郎理事,岡 志郎委員長のもと,毎月編集委員会で厳しい審議を行って頂いており,非常に充実した内容になっています。日々の診療に非常に役立つ内容ですので,是非毎月お目通し下さい。
五十嵐良典理事,藤城光弘理事を中心としたガイドライン委員会で,多くの充実したガイドラインが本学会から出版されています。Sunset rule(5年以上改訂されていないガイドラインは価値がないという考え)に従って順次更新し,最新の情報を提供していきたいと思います。
昨今の社会情勢の変化によって,COIなど,研究や学会発表における倫理上の条件が厳しくなってきています。乾 和郎理事,小早川雅男委員長が精力的に取り組んで下さり,会員の先生に最新の情報提供をさせて頂いておりますが,会員の先生方も学会ホームページを参考にして,社会の動向から遅れないようにご留意下さい。
これまでの先人のご尽力により,内視鏡事業は日本の主要メーカーだけで世界のシェアーのほぼ100%を占めています。このような状況は他に類をみません。このアドバンテージを最大限に生かす意味からも,産学官が緊密な連携を図りつつ,果敢かつ効果的な世界発信を行なわなければなりません。内視鏡医学は,診断・治療・病態解明すべての面において人類の健康増進・福祉に直結する分野です。今後,コンピューター化,AI化,IT化が急速に進む中で,国を挙げての産学官の共同作業が大きく期待されます。本学会でも,緒方晴彦理事,斎藤 豊委員長を中心としたAI推進検討委員会で取り組みを進めて参ります。
いろいろと述べて参りましたが,紙面の関係で本学会の全ての具体的取り組み内容をご説明できていないことをお詫びいたします。
最後になりますが,内視鏡を愛する若い先生達が魅力と夢を感じる学会として本学会が医学的・社会的にさらに発展していくように,役員が一丸となって活動できる運営体制を構築し,また,円滑な世代交代をはかれるよう,理事長として精一杯頑張って行く決意でおります。会員の皆様の御支援・御協力のほど何卒宜しくお願い申し上げます。
2022年5月18日