日本消化器内視鏡学会

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2025年05月20日国際関係

寄稿:ドイツ留学を終えて(七條智聖先生)

大阪国際がんセンター 消化管内科
七條智聖

 日本消化器内視鏡学会の欧州留学支援制度を利用させていただき、2024 年4 月から5 月上旬まで1 カ月間、ドイツのAugsburg University Hospitalに留学して参りました。

 Augsburg はドイツ南部のバイエルン州の州都ミュンヘン(ドイツ第三の都市で人口150 万人)から電車で40 分ほどで到着する人口30 万人の都市で、Augsburg University Hospital(写真1 )はProf. Helmut Messmann を中心とした内視鏡先進施設であり遠方からも患者が集まっていました.矢作直久先生(慶應義塾大学)や小山恒男先生(佐久医療センター)らがライブに訪れられており、先輩方の交流の上で、温かく迎えていただきました。外国人を含む多くのドクターを受け入れているためスタッフも慣れており、スタッフ同士、スタッフと患者との会話はドイツ語でしたが、自分とは英語で会話していました。

写真1 Augsburg University Hospital

 基本的にはオリンパス製の最新の内視鏡が使われており、メイドインジャパンの道具がメインな一方、SureClip( Microtech、 Nanjing、 China)など中国製のものも使われており、内視鏡室の雰囲気は日本のものと似ていました。消化管の内視鏡治療はProf. Helmut Messmann、Dr. Andreas Probst、Dr. Alanna Ebigbo(写真2 )、Dr. Sandra Nagl(写真3 )を中心に行われており非常に成熟している印象を受けました。

写真2 Dr. Alanna Ebigboと
写真3 Dr. Sandra Naglと

 実際の処置を見ていると、初めて見る手技のオンパレードでした。

① 日本ではほとんどしていないもの
クリオバルーン、バレット食道に対するAPC(argon plasma coagulation)、ランダム生検、
RFA(radiofrequency ablation)、膿瘍に対するスポンジドレナージ、FTRD(Full thickness
resection device)1)

② 自分の所属する施設(大阪国際がんセンター)ではしていないもの
POEM(per-oral endoscopic myotomy)、Gastric-POEM、肥満バルーン除去

③ 自分がほとんど見たことがないもの
パピレクトミー、EUS(超音波内視鏡検査)、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)

などが印象的でした。

 教授自ら多彩な手技(ESD(内視鏡的粘膜下層剝離術)、ERCP、パピレク、OTSC(over-thescopeclip)除去など)を行われており、Augsburgで1 例目のEndoscopic intermuscular dissection for deep submucosal invasive cancer in the rectum:a new endoscopic approach2) も難なく終了していました。食道の扁平上皮部分や胃の観察があっさりしているのは、胃癌や食道扁平上皮癌がほとんどないためと思った一方、バレットを観察する情熱は並々ならぬものがあり、ところ変われば病気が変わり、診療も変わるのだと感じました。学術活動も盛んで、バレット腺癌をdetectし、範囲診断する人工知能(artificial intelligence、AI)の研究3)、内視鏡治療の際の血管をAI により視認する研究4) も進んでおり、大腸ポリープdetectionに対するAI はclinical practice として使用されていました。Gastroenterology 誌に掲載された、20-40mm の大腸ポリープに対するconventionalEMR(内視鏡的粘膜切除術)とunderwaterEMR のRCT(randomized controlled trial)の報告も同施設からでDr. Sandra Nagl が1st authorでした(写真3 )5)。他にも多数の論文が報告されており、十二指腸ポリープに対するcold snare polypectomy vs underwater EMR のRCTがドイツ国内の多施設研究として進行中でした。

 Prof. Ian M. Gralnek が学会長をされたESGE Days がちょうどベルリンで開催されたため、大阪国際がんセンターでは有給期間中の学術活動は認められておりませんが、Prof. Helmut Messmannのご好意により初めてESGE Days(ベルリン)に参加させていただき(写真4 )、大きくなったESGE の規模を体感し、ヨーロッパを中心にアジア、インド、日本などの知り合いのドクターとも再会することができました。

写真4 ESGE Days 2024(ベルリン)に参加して

 留学前は、日本の内視鏡診療は進んでいるのに、海外に留学して何を得ることがあるのかとご意見をいただくこともあり、留学初日にも留学先の秘書さんにも日本の内視鏡は進んでいるのに何故来たのか?と聞かれたりしましたし、あえて留学しなくても講演や学会発表などで海外に行く機会をいただくのも事実ですが、 1 カ月もの間、日本の職場を離れ留学する機会を得られたのは本留学制度のおかげと感謝しております(写真5 )。


写真5 テニスの国際大会(BMW Open)を土曜日に観戦

 最後に、受け入れてくださったProf. HelmutMessmann、実際に多くの時間を割いてくれたDr.Alanna Ebigbo ほかスタッフの方々、海外留学、本留学制度への応募を提案、推薦してくださった道田知樹先生(大阪国際がんセンター)、国際委員会担当理事の山本博徳先生(自治医科大学)、留学先の選択にあたってご相談に乗っていただいた、矢作直久先生(慶應義塾大学)、上堂文也先生(大阪国際がんセンター)、竹内洋司先生(群馬大学)、先輩留学者としてアドバイスをいただいた松村倫明先生(千葉大学)、高橋亜紀子先生(佐久医療センター)に感謝申し上げます。

 

文 献
1. Meier B, Stritzke B, Kuellmer A et al. Efficacy and Safety of Endoscopic Full-Thickness Resection in the Colorectum : Results From the German Colonic FTRD Registry. Am J Gastroenterol 2020;115:1998-2006. doi : 10.14309/ajg.0000000000000795.
2. Moons LMG, Bastiaansen BAJ, Richir MC et al. Endoscopic intermuscular dissection for deep submucosal invasive cancer in the rectum : a new endoscopic approach.Endoscopy 2022;54:993-8. doi : 10.1055/a-1748-8573.
3. Ebigbo A, Mendel R, Probst A et al. Multimodal imaging for detection and segmentation of Barrett’s esophagus-related neoplasia using artificial intelligence.Endoscopy 2022;54:E587. doi : 10.1055/a-1704-7885.
4. Ebigbo A, Mendel R, Scheppach MW et al. Vessel and tissue recognition during third-space endoscopy using a deep learning algorithm. Gut 2022;71:2388-90. doi : 10.1136/gutjnl-2021-326470.
5. Nagl S, Ebigbo A, Goelder SK et al. Underwater vs Conventional Endoscopic Mucosal Resection of Large Sessile or Flat Colorectal Polyps : A Prospective Randomized Controlled Trial. Gastroenterology 2021;161:1460-74.e1. doi : 10.1053/j.gastro.2021.07.044.

 

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