一般社団法人 日本消化器内視鏡学会 Japan Gastroenterological Endoscopy Society

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寄稿:新型コロナウイルスに関する米国アリゾナ州Mayo Clinicの現状報告(深見悟生先生)

 

 

 

メイヨークリニック アリゾナ 

深見悟生 

 

 日本消化器内視鏡学会会員の皆様。今回、Mayo Clinic Arizonaで行ったCOVID対応策(主に消化器診療、内視鏡検査に関して)と診療の変遷をご報告させていただきたいと思います。これからの施策に役立てていただけたら嬉しい限りです。Mayo Clinicは全米に3箇所あり全体での対応をプロトコール化し全施設に通達するシステムとなっており、Rochester, MNとJacksonville, FLとの緊密な連絡の上、Arizonaでの対応を決定していました。

 

 原因不明のウイルス性肺炎が発表された2020年の1月から、ダイアモンドプリンセス号での集団感染と拡散が始まり、病名がCOVID-19と決定され韓国で爆発的に広がりだした2月、そしてイタリアにも疫病が広がりだした2―3月と状況の変化はとても早く、イタリアで病院が患者で溢れてた様子とOvercapacityで手が回らず沢山の患者が亡くなられた事をニュースで見聞していた時は、これからアメリカに訪れる状況を鑑みて戦々恐々としておりました。ウイルスの感染経路や初期症状などの情報は入るものの、感染力、無症状キャリアーの率などわかることも少なく、ウイルス検査も整ってない状況でCOVID-19のパンデミックを迎え(3月11日)、アメリカでは国家緊急事態が宣言されました(3月13日)。その後のニューヨークでの惨状はご存知の通りです。2月の終わりに東京医科大から見学の若い医師達を当院に迎えていた私は最終日の金曜日のお昼前、海外からの訪問者は直ぐにホテルに返す様にとの通達を受けて、残念な思いをした事を覚えています。その後から、自体は急展開をしていき日々対応に追われておりました。

 

 病院ではCOVIDに対応する為HICS (hospital incident command system)が設置され、様々な委員会も設置されました。直ぐに病院のイントラネットには全ての職員が情報を得られるようにCOVIDのウェブサイトが立ち上がります(Figure 1)。3月の14―15日にはアメリカの消化器内視鏡学会から、そして消化器、消化器内視鏡、肝臓学会共同でまとめられたCOVID対応策(外来、内視鏡中心に)がemailで配布されました。

 

Figure 1: sample mayo website

 

 3月19日にはアリゾナ州知事が、これから予想される患者急増を見越して、PPE(個人用保護具)と病院のベッドを十分確保する様に、3月21日から全てのelective surgery は中止する様にと知事命令が出ました。早急に全ての手術、内視鏡および外来は中止され、緊急対応のみとなりました。病院での緊急内視鏡のみで外来の内視鏡室は休止となり、必要のない医療従事者は自宅待機となります。私は病院の内視鏡室長としてここ1ヶ月の予約患者のカルテをチェックし、どの患者が内視鏡が必要かを仕分けする作業に追われます。この時、内視鏡を施行しないと救急部受診や入院となる可能性があるかどうかをチェックしました。内視鏡自体が緊急でなくても近い将来に入院患者になってしまうと病院診療崩壊を避けるという意図に反するからです。

 

 一般外来では、学会から推奨され、また政府保険や州からの命令で一般保険会社もテレメディシン(電話やビデオを用いた外来診療)が従来の来院受診と同様の支払い受けることが許可された事も追い風となり、速やかにビデオ診療に移行しました。テレメディシンのプログラムがすでにマーケティングされていた事とそれに対応できるインターネット回線のインフラが整っていた事もあり(本当にタイミングが良かったと言えます)、予想を遥かに超えて保険診療許可の後押しですんなりビデオ受診への移行が進んだのは本当に驚きです。患者側もすんなりと受け入れていただき、ビデオの扱いもお年寄りでも普通にされていたのは感嘆する以外なかったです。

 医師もスタッフも来院を制限され、病院のコンピュータを家に持ち帰って家から外来診療を行う様に指導されました。私も最近まで家で外来診療を行っていました。この時点で病院は、寂れた病院の様に人の影がなくヒッソリしておりました。COVIDの波が届いてない時点で、アリゾナでの感染者はまだ数百人程でしたが、全て東海岸での惨劇を知った上での予防的対応です。

 

 全ての来院患者は事前の問診と検温(電話)でスクリーニングされ、また来院後ももう一度問診、検温があり無症状、平熱、そしてリスクの高い地域への旅行や接触のない人しか病院に入れない来院制限を開始。入院患者や手術内視鏡で来院した患者の付添人は禁止されました。当然、医師職員も同様のスクリーニングと検温1日2回を自分達で責任を持って行う義務が課され、頻繁な手洗い推奨、診療時マスク着用、院内でもなるべく間隔をとる、手指消毒剤の増設など次々に対策が強化されていきました。カンファレンスは10人以上の集まりは禁止され、ほぼ全てweb-based conference に移行してます。

 

 当院では内視鏡検査は外科手術患者と同様なプロセスを取る為、同じ委員会で対応を決定します。

 外来の内視鏡、手術の患者予約をするにあたり、第一次スクリーニングが内視鏡や外科各科のリーダーによって行われ、後には第二スクリーニングまで委員会で行われ、厳格な患者選択が行われました。私もTable 1の様に基準を設定し、皆に伝達しました。これはPPEを十分に残しておく為とベッド数を確保しておく為です。この為、手術内視鏡の件数は通常の20%以下となりました。

 

Table 1

1.Cancer diagnosis and treatment 

2.Significant GI bleed 

3.Relief of significant GI symptoms (symptomatic treatment)

4.Investigation for treatment altering findings (e.g. ongoing symptoms despite therapy or requiring treatment change)

  MD has to claim the plan to change therapy depending on the endoscopic findings/outcomes

 

Sub-category: Treatment for anticipated adverse outcome (preemptive therapy to prevent ER visit or hospitalization)

 

 また、PPEの使用制限の影響を大きく受けたのはレジデント、フェロー達でした。トレーニング中の医師はPPE使用を減らす為と患者接触とCOVIDの感染リスクを減らす為、自宅勉強に変更させられました。このルールの施行期間が不明だった為、全ての研修医たちは重苦しい不安に駆られたと思います。十分なトレーニングが受けられず卒業資格が得られない可能性があった為です。

 

1.初期感染対策

 手術、内視鏡の中でまず内視鏡はaerosol generating procedure (AGP) とされ、PPEの一部として全ての症例でN95 maskまたはCAPR(controlled-air purifying respirator)またはPAPR (powered air purifying respirator)の使用が義務づけられました(Figure 2)。この時期はまだ患者のウイルス検査ができなかった為、全てCOVID疑いとして扱いました。全身麻酔で内視鏡を行う場合は、気管内挿管処置前後の感染危険が非常に高いとして気管内挿管中には麻酔科以外は入室しないなど厳格な隔離処置が取られました。

 

Figure 2: Mayo PPE-Selection-Guide-AGP

 COVID陽性の患者は全て陰性圧内視鏡室でのみの検査施行をするプランも立てました。Aerosolが部屋以外に飛び散らない様にする為で、ドアの開閉も一定時間制限をしました。前述の通り患者全員がテストできていなかった為、全ての内視鏡患者は陽性の可能性ありとして、PPEはAGPに準じて防護服、N95 mask(またはCAPR/PAPR)、目防護シールド、手袋全て必須で開始。内視鏡が終わったのちは部屋の換気が5サイクル終わるまで(うちの内視鏡室では約40分)立ち入り禁止。その後徹底した消毒を行う。この為、内視鏡検査の間に1時間ほど要し、1日にできる件数のキャパシティーは大幅に制限されたのは容易に想像できると思います。部屋のUVによる滅菌も部屋のクリーニングに導入されました。(スターウォーズのR2D2みたいな機械で部屋全体にUVを10分程照射しますー当然語りかけても反応してくれません。)

 下痢が30%程のCOVID患者に見られ、患者の便中にウイルスRNAが検出されるとの報告があり、大腸内視鏡検査も高リスク検査に入れられましたが、後にRNAは検出されてもウイルスは検出されなかったと報告され、便を介した感染のリスクは未だ明らかでありませんが呼吸器系より重要度は低いであろうと考えられています。

 

2.経済的影響

 Mayo Clinicでは3月一杯はどれだけ患者診療が減ったとしても給料を支払い続けるという職員サポートのメールが配信されました。しかし、患者が減ったときの減収が甚大である事の現実に晒されて4月からは無給休職、臨時職員の解雇、職員給与減額など様々なコストカットを打ち出し全米でも話題になりました。Mayo clinic全体では2019年に13.8 billion dollars の収益を上げましたが、2020年はコロナの影響で3 billion dollars の減収を見越しています。減収予想は多岐にわたるコストカットの施行を余儀なくさせられました(4月は職員の士気を維持するのがどんなに大変だったか…)。現在も全ての新規グラントが停止され、来年(2021)の施設への投資、新たな機器購入はストップとなっています。

 

3. 3月から5月のコロナ状況

 アリゾナ州では幸い急激な患者増加はありませんでした。しかしCDCからのテストキットの配布は後手後手に回った事は事実です。PCRが十分にできるまでかなりの時間がかかったことに私たちはかなりの不満を持っていました。ようやくMayo Clinicで独自のPCR施行を開始し、一日64件から急速に1日1000人以上と能力を増やし、駐車場にテント式のドライブスルー検査場を設置し、来院患者全員を1−2日以内にテストし陰性の患者のみ手術、内視鏡を施行するシステムに移行。症状のある方のテスト陽性率が5−6%から無症状の手術・内視鏡前検査を含めると3%と低下していきます。Mayo Clinic のICUのCOVID 入院患者は20人を超えることは稀でした。後にテスト能力の増強後、入院となる患者の検査も全員施行することになりました。4月の中頃から病院内では全職員、患者および付添人のマスク常時着用義務が加わりました。この期間は内視鏡が必要な患者を学会の推奨する名称に合わせ、1. Urgent, 2. Semi-urgent, 3. Electiveとし、urgent の患者だけでなくPPEが十分に確保できている間は徐々にsemi-urgentの患者にも内視鏡施行を施行許可しました。しかし、患者数に見合った内視鏡室数とし最小人数の内視鏡医で一日の患者を診療できる体制にしていました(医師、スタッフの感染リスクを減らすため)。

 

4.5月からの一般診療再開

 アリゾナ州の感染率上昇の鈍化と経済停滞を監視していた州知事が(もちろん連邦政府も含めてですがーちなみにアリゾナはrepublicanよりの州です)自宅待機命令の段階的緩和を始めました。4月22日に州知事は一定の規約を満たした病院は5月1日から待機的手術および内視鏡を許可すると知事命令を出しました。5月8−11日からサービス業や一部のレストランやモールも開店許可を出しました。

 Mayo Clinic内でも議論され、これまで診療を受けることができなかった患者や必要だけどもUrgent―semi-urgentと考えられなかった患者にも医療を受ける機会を拡げる事が大事だとして、十分なCOVID対策をとった上で一般診療再開とコロナ以前のキャパシティに戻る為の努力目標が示されました。5月1日から段階的に以前の件数、外来患者数に戻していく様に職員が要所に振り分けられ、急速に患者数が回復していきました。それでもまだ現在でも、多くの職員は家で働くことを推奨されています。

 

5.内視鏡検査の変化

 内視鏡件数も急速に増加していきました。この件で、内視鏡検査間の待ち時間が本当に必要なのかという議論が出てきます。これだけ感染率、罹患率が低い状況と、なんどもスクリーニングして事前PCR検査も全例に行なっていると、PCRテスト偽陰性がいるとしてもその数はかなり低いであろうと考えられます。4月27日に、アメリカ消化器病学会(AGA)からPCRテスト陰性の場合はN95マスクではなく通常のサージカルマスクの使用のみでもよいと云う事も内視鏡診療再開に向けての指針に記載されました。N95は初めの頃から使えなくなるまで再使用(個別の容器に入れ、時々UVで滅菌)していますので、個人の意思で使用できる事にしていますが基本的にModified droplet precautionで施行しています。(Figure 3) 現時点での感染率を鑑み、部屋のクリーニングも内視鏡終了直後に開始できると院内感染対策委員会からも了解を得て、件数の能力は以前とほぼ同様に戻っております。

 

Figure 3: Mayo PPE-Selection-Guide-Modified-Droplet

 現在、内視鏡検査はCOVID パンデミック以前と同じ臨床適応症に対し行っています。

 患者側に立ち、付き添いの方も院内に入れる様になりましたが、専用の待合室を設けてsocial distancingなどの予防策は十分にとっています(1人まで)。

 

 現在でもすでに確立されたスクリーニングプロセスと院内ルールはCOVID感染予防の為に全ての職員及び患者対象に継続されています。

 

内視鏡患者の流れ:

1.2−3日前までに電話で予約確認と問診

2.1−2日前までにCOVID PCR検査

3.PCR検査陰性の場合、来院。来院時に再度問診、検温。問題ない限りマスク着用で受付に進む

4.通常の様に検査準備し検査へ

5.内視鏡施行時はModified droplet precautionに対応したPPE 着用。N 95マスク着用可

6.内視鏡施行後、麻酔から回復したら看護婦が待合室まで患者を搬送(内視鏡準備室、リカバリー室に入る人数を制限する為。ちなみに以前は付き添いの人は1人準備室およびリカバリー室に入室可であった)

7.内視鏡は通常どおりにhigh level disinfection される

8.部屋のterminal clean を行う

 

 当然、頻繁な手洗い、social distancing (院内でも10人以上の集まり禁止、2feet離れる)、熱がある時、体調が悪い時は来院しないなどのルールが守られ、日々コロナの感染拡大の予防に気をつけながら内視鏡診療および外来診療を行っています。

 

 アメリカの累感染者数は200万人を超えた上、社会活動が再開された今現在は様々な都市で感染者がまた増加しています。当然感染率、病院の逼迫度、COVID患者数は都市ごとに大きな差があり、アメリカのパンデミック初期は東海岸、カリフォルニア、ワシントンなどでは病院の診療に非常に大きな影響を与えました。アリゾナは感染患者が少ない方の州で対策に時間があった事は幸いです。しかし、アリゾナでも感染者数が社会活動の再開(5月中旬)後2週間程で急に増加し、病床使用率が増加しICU使用率も増加中(Figure 4)。危機感を持って今は第二波の患者増加に向けて対策を進めています。内視鏡室や内視鏡準備室、リカバリー室も病床への変更が可能で最悪の場合内視鏡件数を格段に減らして病床を増やすバックアッププランも作成されています。病院が患者急増に追いつかなくなる事が一番の問題であり、常に患者増加のトレンドなどを監視し、州の保険政策部と対話をしながら臨機応変に対応している最中であります。

 COVID罹患率が上がると、N 95常時使用、内視鏡室の厳格運用(部屋の密閉換気時間を含める)の再施行が必要になるかもしれません。幸い私たちには準備を進める時間と余裕があった事もあり、第二波にも対応可能であると自負しています。

 

Figure 4: Reported daily COVID cases in Arizona

 

 アメリカから日本での感染が広がらない様、また病院診療崩壊が起こらない事を祈っています。また状況が変わったらまたご報告させていただきたいと思います。

 

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